2024-25シーズンのプレミアリーグもいよいよ佳境を迎えています。その中で、最も大きな注目を集めているのが、リバプールFCの快進撃です。今季から新たに指揮を執るアルネ・スロット監督は、プレミアリーグ初挑戦のシーズンにもかかわらず、26戦無敗という圧巻の成績で、リーグ優勝目前までチームを導きました。
ギャリー・ネビルは、そんなスロット監督の手腕を「これまでプレミアリーグで見てきた中でも最高のコーチングのひとつ」と絶賛しています。この記事では、スロット監督の戦術、選手マネジメント、そしてリバプールの今季の歩みを詳しく振り返りながら、その功績の大きさに迫ります。
🟥 クロップの後継という“無理ゲー”に挑んだスロット
リバプールにとって、2024年夏はひとつの時代の終わりを告げるものでした。ユルゲン・クロップが監督の座を退き、クラブは新たな章に踏み出すことになったのです。多くのファンにとって、クロップは単なる監督ではなく、情熱とカリスマでチームを一つにまとめた“象徴的存在”でした。
そのクロップの後任に選ばれたのが、オランダのフェイエノールトで実績を積んだアルネ・スロットでした。プレミアリーグでの経験はゼロ。加えて英語圏での監督歴もない中で、リバプールという世界屈指のビッグクラブを率いることになったのです。
誰もが「クロップの後任など務まるはずがない」と感じていたことでしょう。事実、シーズン前の優勝予想では、マンチェスター・シティとアーセナルに次ぐ“第3の存在”という見方が大半を占めていました。
しかし、シーズンが始まると、その懸念は次々と払拭されていきます。
🚀 プレミアリーグを席巻するスロット流フットボール
スロット監督のサッカーは、ポゼッションと流動性、そして局面での柔軟性を重視したものです。クロップ時代の“ゲーゲンプレス”とは一線を画しながらも、ハイインテンシティと攻撃的な姿勢はしっかりと受け継がれています。
守備面では、中盤でのカウンター封じを重視し、ボールロスト後のトランジションをスムーズに。攻撃では、サイドアタックと中央突破を織り交ぜ、状況に応じて戦術を変化させる知性が光ります。
この戦術的柔軟さが、今季のリバプールをより「読めない」チームへと変貌させ、結果的に相手の分析を困難にしました。
ギャリー・ネビルも「スロットはリバプールという歴史あるクラブに適応するだけでなく、クロップの影からも脱し、自らの色を加えた」と評価しています。
⚽ サラー再覚醒──32歳で最高のシーズン
スロット体制の最大の成功要因のひとつが、モハメド・サラーの再覚醒でしょう。
32歳となったサラーは、かつてのような爆発的なスプリントやプレスは少なくなりましたが、ゴール前での存在感はむしろ増しています。今季、彼はプレミアリーグの「最多ゴール関与記録(ゴール+アシスト)」を更新し、ゴールデンブーツ獲得もほぼ確実と見られています。
順位 | 選手名(シーズン) | ゴール関与数 |
---|---|---|
1 | モハメド・サラー(24/25) | 45 |
2 | ティエリ・アンリ(02/03) | 44 |
3 | アーリング・ハーランド(22/23) | 44 |
4 | ルイス・スアレス(13/14) | 43 |
5 | モハメド・サラー(17/18) | 42 |
ネビルは、そんなサラーの変化について「チームが彼にフィットするよう形を変えた」と述べています。今のサラーは、セカンドストライカーのような位置取りをしており、守備時にはあまり戻らず、攻撃の起点としてポジショニングしています。
この変化は、サラーのコンディションや年齢を考慮した“再定義”と言えるでしょう。そして、こうした変更がうまく機能するには、監督と選手の信頼関係が不可欠です。スロットはまさに「その適切な人物だった」とネビルは語ります。
🌟 グラフェンベルフ、ついに開花──“6番問題”の救世主
リバプールが今季抱えていた構造的な問題のひとつが、ファビーニョ退団後の「6番」=アンカー不在でした。レアル・ソシエダからズビメンディを獲得するプランも潰え、チームの中盤に大きな穴が空くことが懸念されていました。
そこでスロットが抜擢したのが、これまで不安定な印象のあったライアン・グラフェンベルフです。ネビルは彼の成長について、「6点だった選手を7点に、7点だった選手を8点に引き上げた」と表現。特にレスター戦でのパフォーマンスは、MVP級だったと評価しています。
指標 | 2023/24 | 2024/25 |
---|---|---|
インターセプト | 1.12 | 1.78 |
タックル成功数 | 0.96 | 1.02 |
パス成功数 | 33.00 | 49.08 |
自陣でのボール奪取 | 1.69 | 2.03 |
ボールタッチ数 | 60.05 | 70.49 |
同様に、コーディ・ガクポやカーティス・ジョーンズといった“微妙な評価”を受けていた選手たちも軒並みステップアップを果たし、チーム全体の底上げに成功しました。
🗣️ 冷静沈着、どんな状況でも動じない指揮官
シーズン中、負傷者の続出やVARによる不可解な判定など、リバプールにもトラブルは多く発生しました。しかし、その都度スロット監督は冷静に対処し、決してパニックに陥ることはありませんでした。
ファン・ダイクやサラーとの契約延長といった重要な局面でも、焦りや強硬な態度を見せることなく、粘り強く交渉を進め、結果としてチームの安定を保ちました。
「感情をコントロールし、常に平静であること」が、今季のリバプールにおけるスロットの最大の武器であり、それが選手たちに安心感をもたらしたのです。
🎯 優勝目前──“競争がなかった”という批判をどう捉えるか
快進撃を続けるリバプールに対し、一部では「真の競争がなかった」とする声も上がっています。確かに、アーセナルやシティが序盤から勝ち点を取りこぼしたことで、リバプールは相対的に“楽”に見えるシーズンを送っているようにも映るかもしれません。
しかしネビルは、「それはリバプールの問題ではない。他のチームの問題だ」と一蹴します。多額の資金を投じながらも結果を出せないチェルシー、トッテナム、ユナイテッドらの責任を指摘し、むしろリバプールの補強と運営の精度の高さを称賛しています。
📝 最後に──プレミアリーグ史に残る初年度
アルネ・スロットという名将の登場は、間違いなく今季のプレミアリーグのハイライトです。
クロップの“王朝”の後を継ぎながら、全く新たなスタイルでチームを再構築し、選手たちの力を最大限に引き出すその手腕は、ただの新人監督の仕事とは思えません。
トッテナムとの一戦で引き分け以上なら、リバプールはついに悲願の2度目のプレミアリーグ制覇を果たします。その瞬間、スロットの名は、プレミアリーグの歴史に深く刻まれることになるでしょう。
出典:
Sky Sports「Gary Neville: Arne Slot’s debut season at Liverpool among best we’ve seen in Premier League, with Reds on brink of title」
https://www.skysports.com/football/news/29326/13354661/gary-neville-arne-slots-debut-season-at-liverpool-among-best-weve-seen-in-premier-league-with-reds-on-brink-of-title
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